韓国の変わりゆく風景
ソウルの繁華街、明洞(ミョンドン)。金曜日の夜8時。会社帰りの20代女性ミンジュさんが、スマホを片手に歩いている。
「今日は何を食べようかな…」
彼女が向かったのは、カウンター席だけの小さなチキン専門店。「1人チキンセット、お願いします」と注文し、スマホで写真を撮ってSNSに投稿。
ハッシュタグは「#혼밥인증샷」(ひとり飯認証ショット)。

この光景、実は5年前なら「ありえない」ものでした。
「ひとり飯」がタブーだった時代
韓国といえば、サムギョプサルをみんなでワイワイ食べる光景を思い浮かべませんか?実際、つい最近まで韓国は「超・集団主義社会」でした。

大学の食堂で一人で食事をしている学生は「友達がいない可哀想な人」扱い。
「一人客お断り」の飲食店も珍しくなく、一人で外食なんて考えられない時代が続いていました。
でも、なぜ今「혼족(ホンジョク)」=ひとり族が大ブームになったのでしょうか?
혼족ブーム爆発の舞台裏
「혼족」という言葉、聞いたことありますか?「혼자(一人)」+「족(族)」の造語で、まさに”ひとり族”のこと。
今や韓国の若者の間では:
- 혼밥(ホンバプ)= 一人ご飯
- 혼술(ホンスル)= 一人酒
- 혼영(ホンヨン)= 一人映画
などなど、「혼○○」シリーズが次々と生まれているんです。
でも、この激変の裏には、韓国社会の「ある深刻な問題」が隠れていました。
若者を襲う「三重苦」
1. 絶望的な就職難
韓国の若者の間では「헬조선(ヘル朝鮮)」という言葉が流行。「地獄のような韓国」という意味で、就職難や競争社会への絶望感を表現しています。
2. 一人暮らしの急増
都市部でワンルームマンションが急増し、若者の一人暮らしが一般化しました。気軽に見える単身生活も、実際には孤独や経済的不安と隣り合わせです。
3. SNS文化による孤立
スマホとSNSの急速な普及により、リアルな人間関係を持たずともつながれる時代に。しかし、その裏で「見せかけのつながり」や「比較による自己否定」など、孤独感や精神的ストレスが広がっています。
そんな中、韓国の若者たちの心をガッチリ掴んだのが、意外にも日本のあるドラマでした。
「腹が、減った…」が韓国を変えた瞬間
そのドラマとは、『孤独のグルメ』。
井之頭五郎の、「腹が、減った…」という何気ない一言が、韓国で大旋風を巻き起こしたんです。
日本の『孤独のグルメ』主演・松重豊さんと、韓国の人気歌手ソン・シギョンさんが共演するNetflix番組『隣の国のグルメイト』。この番組では、二人が互いの国を旅しながら、それぞれの食文化や名店を紹介し合い、食を通じて国境を越えた友情を深めていきます。韓国で『孤独のグルメ』がブームとなった背景や、日韓の“ひとり飯”文化の違い・共通点にも注目できる、グルメと異文化交流の魅力が詰まった一作です。
では、なぜこのたった一言がこんなにも影響力を持ったのでしょうか?
韓国人が五郎さんに見た「新しい自由」
一人で店に入り、誰にも邪魔されず、黙々と食事を楽しむ。
これまで韓国では「寂しい人」「友達がいない人」と見られがちだった一人飯が、五郎さんの影響で「かっこいい」「自由」な行為として受け入れられ始めたんです。
韓国の飲食店関係者からも「一人のお客さんが増えたのは、五郎さんの影響があるかもしれません」という声が上がるほど。
でも、話はここで終わりません。このブームが韓国社会全体を変え始めたんです。
혼족ブームが変えた韓国社会
飲食業界の大革命
- 1人専用メニューの大量登場
- カウンター席の充実
- 1人用鍋、焼肉、チキンなど「ひとり飯」前提の店舗が急増
消費文化の変化
- 1人用家具・家電の大ヒット
- 1人分の食品やレトルト商品が大人気
- ワンルーム向け商品の市場拡大
エンタメ界への波及
K-POPアイドルや芸能人も「혼족ライフ」を公言し、若者の間で一人時間を楽しむことが「イケてる」こととして定着しました。
BTS(防弾少年団)のジン
ジンはインタビューやV LIVEなどで「一人でカフェに行くのが好き」と何度も発言しており、ファンの間でも「혼카페(ホンカフェ)」=一人カフェが話題になっています。
BLACKPINKのジス
ジスはSNSで「一人映画館デート」を楽しむ様子を投稿し、ファンから「혼영(ホンヨン)」=一人映画の共感コメントが多数寄せられています。
そして、この現象は韓国だけにとどまりませんでした。
国境を越えて広がるホンジョク(혼족)文化
今や韓国発の혼족(ホンジョク)文化は、中国や東南アジアへも広がりを見せています。
「孤独経済」「Korean Solo Life」として世界的に注目されています。
現在、中国では「孤独经济(グードゥジンジー)」という言葉が浸透しています。北京や上海では、北京や上海では、一人火鍋専門店や一人カラオケボックス、一人映画館など、“ひとり専用”のスポットが続々と登場しています。
さらに近年では、タイやベトナム、マレーシアなど東南アジアの国々でも「Korean Solo Life」がトレンドに。K-POPや韓国ドラマの影響もあって、「혼밥チャレンジ」や「一人焼肉レビュー」といった韓国式の“ひとり文化”が、SNSで「やってみた系」投稿として拡散される場面も増えています。
おわりに:「腹が、減った…」が教えてくれたこと
井之頭五郎の「腹が、減った…」という飾らない一言。
これが韓国の若者の心に響いたのは、単なる偶然ではありません。
社会の変化とともに”自分のための時間”を求める気持ちが高まっていた時代だったからこそ、この一言が、「一人で過ごすことをポジティブに捉える時代」の幕開けを象徴していたのです。
“ひとり”を楽しむことは、もう特別なことではありません。
それが当たり前になる時代に、孤独経済はこれからますます進化していくことでしょう。
みなさんはどんな一人時間が好きですか?一人映画、一人カフェ、それとも一人旅?
あなたの「혼○○」体験をぜひコメントで教えてください!
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